文章論関係文献

●日本語の文章構造研究の基本文献

 出版年

著者

文章構造関係の文献(出版社)

1950

1978

1986

 

1973 

1973

1974

1979

1984

 

時枝 誠記(TOKIEDA Motoki)

市川 孝(ICHIKAWA Takashi)

永野 賢(NAGANO Masaru)

 

林 四郎(HAYASHI Shirou)

土部 弘(HANIBE Hiroshi)

南 不二男(MINAMI Fujio)

樺島 忠夫(KABASHIMA Tadao)

長田 久男(NAGATA Hisao)

 

日本文法口語篇(岩波書店)

国語教育のための文章論概説(教育出版)

文章論総説(朝倉書店)

 

文の姿勢の研究(明治図書出版)

文章表現の機構(くろしお出版)

現代日本語の構造(大修館書店)

日本語のスタイルブック(大修館書店)

国語連文論(和泉書院)

 

 どれも20年以上前に出版された本ですが、以下の4点は共通しています。

  • 文を超えた言語単位として文章を捉えている
  • 文構造ではなく文章構造の中で言語形式の機能を捉えている
  • 提示された理論や概念は文章データの構造分析に基づいて考え出されている
  • 読解や作文のような実用的な面による人間の言語活動を視野に入れている

 

 文章構造の基本的な概念や分析方法の大部分はこれらの文献に含まれています。どの文献も対象は日本語母語話者、いわゆる日本人の文章です。特に、文から文章へと構造研究の対象を広げた時枝(1950)と、時枝の理論を発展させて文章論の基本概念と分析方法を確立した市川(1978)と永野(1986)は、文章論の基本文献です。

 

 以上の文献に加えて、具体的な文章構造分析の方法をまとめた教科書として、以下の文献も紹介します。大学院の演習で受講者に自分の書いた作文を構造分析してもらう時に、この本に基づいて文章構造分析の基本的な概念と分析方法を説明し、文章構造図の作成を行っています。

  • 『ケーススタディ 日本語の文章・談話』寺村秀夫・佐久間まゆみ・杉戸清樹・半澤幹一編、1990年、おうふう

 

 では、日本語学習者、いわゆる日本語を母語としない外国人の文章にこれらの文章構造研究はどのような面で応用できるのでしょうか。

 

 日本語学習者を対象とする日本語教育では言語形式が文章の中で担う機能を明示的にすることが重要です。文章に現れた具体的かつ明示的な表現を媒介とすることにより、学習者が意識的に日本語を使用できると考えるからです。

 さらに、文法研究やコーパス研究などで行われる大量データによる意味用法の抽出とは異なり、作文教育では既知の意味用法を用いて新しい内容を創り出すことが重要だと考えます。例えば、コーパスによって特定の文章型が日本語の意見文の典型として抽出されたとします。その型に従って書けば日本語の意見文は書けるようになるでしょう。

 しかし、それだけでは作文教育としては不十分です。型に従っていても、型を使って創り出した文章全体としての意味内容の新しさが必要なのです。つまり、器は同じでも器に盛る料理が前とは違うものでなければなりません。

 

 学習者が既知の文章型から未知の意味内容を創り出す過程の中でどのような文章が創り出され得るのかを解明することが、文章構造研究に基づく日本語教育の作文教育の最終目標です。